事例の紹介
~不支給処分の取消が認められた例~
***事例①***
障害年金の裁定請求をしたら、障害の程度が国民年金法施行令の別表に定められた程度に達していないとして、障害年金が不支給となってしまった。裁判で、この不支給処分を取り消したい。
【判断】
原告の精神の障害は、国民年金法施行令所定の障害等級が定める程度に達していたと認められるとして、不支給処分は取消しになりました。
大津地判平成22年1月19日は、
「障害認定基準に従い定められた国民年金法施行令にいう『精神上の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの』とは、国民年金法施行令別表2級各号と同程度以上と認められるもので、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものをいう。」と定義しました。そして、「不支給処分の約3、4年後に同人らがした再裁定請求に対し日常生活能力の低下を理由に支給する裁定がなされた場合、知的障害の性質上支持的で恵まれた環境下での適応水準の向上可能性はあるが、基礎にある知的機能は改善しないことがほとんどであり、既習得の日常生活能力が約3、4年間で低下したとは通常考え難く、日常生活能力が低下したといえる徴憑について合理的な説明もないときには、障害認定日又は20歳に達した日における知的障害者らの障害の程度は、国民年金法施行令所定の障害等級が定める程度に達していたと認められるから、不支給処分は違法である。」として、不支給処分を違法であるとして、取り消しました。
***事例②***
初診から長い年月が経っており、障害の程度の診断書が集まらないため、障害年金の裁定にあたり、障害等級要件を満たさないとして、障害年金が不支給となってしまった。裁判で、この不支給処分を取り消したい。
【判断】
他に障害の程度を判断するための合理的資料が得られる場合には、それによって障害の程度を認定することもできるとして、不支給処分は取消しになりました。
神戸地判平成23年1月12日は、
「司法判断の手法という観点から法の規定内容をあらためてみると,国民年金法(昭和60年改正前も同様)は,裁定請求において医師の診断書を提出することを要件としておらず,当該基準に該当するか否かを判断するにあたって,医師の診断書の記載によるべきことを定めた法の規定はない」上に、「医師の診断書は,裁定機関に要求される認定判断の客観性・公平性を担保し,かつ,円滑に裁定することを可能とするために要求されているものにすぎないと解すべきである。」としました。
そして、「聴力障害に係る障害福祉年金又は障害基礎年金の裁定における障害の程度の司法判断は,必ず聴力の測定結果が記載された医師の診断書の記載によらなければならないということはなく,他に障害の程度を判断するための合理的資料が得られる場合には,それによって障害の程度を認定することもできるというべきである。」として、本件では、中学時代の教師や家族らの陳述により障害の要件を認定し、不支給処分を違法であるとして、取消しました。(神戸地判平成23年1月12日(平成21年(行ウ)第33号))